コラボレーションの体験談

2025年6月12日、東京の国立アートリサーチセンターにて「JUMP Meetup」を開催しました。リスボン、ロサンゼルス、シドニーの3都市でリサーチを進めているJUMP参加アーティストとキュレーターが集い、各自の進捗や作品の構想を共有。参加者同士の対話やメンターからのアドバイスを通して、今後の展開に向けた議論を深めました。
メンターは、安田篤生さん(高知県立美術館 館長)と会田大也さん(山口情報芸術センター[YCAM] アーティスティック・ディレクター)が会場参加、片岡真実さん(国立アートリサーチセンター センター長/森美術館 館長)と保坂健二朗さん(滋賀県立美術館 ディレクター)が海外からオンラインで参加。それぞれの経験や立場からコメントが寄せられ、活発な意見交換が行われました。

文:国立アートリサーチセンター 撮影:仲田絵美

各チームからの進捗報告

まずは、3チームそれぞれの現状を共有しました。遠藤薫さん(アーティスト)と荒井保洋さん(滋賀県立美術館 主任学芸員)は、2025年4月に、オーストラリアのブリスベン、シドニー、キャンベラの3都市をめぐり、10日間のリサーチを実施。展示会場のニュー・サウス・ウェールズ州立美術館の館内視察を行い、空間の特性を踏まえたプラン検討の進捗が共有されました。

プレゼンテーションをしている遠藤さんと荒井さん

アーティストデュオのMES(新井健さん・谷川果菜絵さん)と塚本麻莉さん(高知県立美術館 主任学芸員)は、2025年5月に実施した高知市や四万十市で行ったリサーチの様子と、本会議後の6月に予定されていたロサンゼルスでのリサーチの計画について報告しました。展示会場となるロサンゼルス現代美術館のゲフィン・コンテンポラリーは、倉庫を改装してつくられた空間であり、その特性をいかして、映像とパフォーマンスを融合した作品プランが検討されています。

プレゼンテーションをしているMESと塚本さん

青柳菜摘さん(アーティスト)と見留さやかさん(山口情報芸術センター[YCAM] キュレーター)は、ポルトガルのリスボン、ポルト、コインブラ、ファティマなどを約2週間かけてめぐり、リサーチを行いました。CAM - グルベンキアン・モダンアートセンターを会場に、映像作品やサウンドインスタレーション、ほかにもさまざまな仕掛けを通じて、観客に体験と対話を促すアイデアが共有されました。

プレゼンテーションをしている青柳さん

メンターからのフィードバック

各チームの進捗報告に対して、4名のメンターからはそれぞれの経験に基づくフィードバックが寄せられました。具体的な実践のヒントから、国際協働のあり方におけるアドバイスまで、多面的な視点が提示されました。

安田さんは、美術館が位置する地域の文化的背景を丁寧に観察することの重要性を強調しました。その上で、日本と各国との歴史的・文化的な認識の差異を踏まえながら、リサーチや制作を展開することを奨励。ロサンゼルスチームに対しては、高知とカリフォルニアの地理的な関係やアメリカにおける日系人の歴史に触れ、両地域を結ぶ要素を作品に反映させることへの期待を述べました。

会田さんは、リサーチを基に作品を構想する際、テーマに対するアーティスト自身の考えや立場を明確にすることで、表現の軸が定まり、観客に伝わる作品となると指摘しました。リスボンチームには、リサーチの手がかりになる情報提供に加え、YCAMとの連携を通じて技術的な挑戦をすることで、より表現の可能性が広がるのではないか、という期待が語られました。

保坂さんは、シドニーチームに対し、オーストラリアと日本の歴史や、宗教観の違いを認識することの重要性を指摘。市民や観光客を含む多様な観客層に届く、強度のある作品をつくることの必要性を強調しました。ほかのチームに対しても、各国の文化的背景を尊重することに加え、制作プロセスそのものを記録し、共有していく意義についても言及しました。

片岡さんは、国際展のディレクターを務めた経験から、先住民族や宗教といった繊細なテーマに向き合う際の態度や、現地コミュニティとの関係性構築の重要性を語りました。また、リサーチで得た情報やコンテクストをどのように作品化し、鑑賞者に伝えるかという課題にも触れ、会場特性をいかした作品構成や導線設計についても実践的なアドバイスが行われました。

メンター4名のフィードバックに共通していたのは、文化や歴史に対する深い理解と敬意を前提に、リサーチを基にした作品を観客へ届ける方法を探る重要性でした。国際的な協働の現場において、作品を発展させ、伝えていくための多くの示唆が得られる時間となりました。

アドバイスをしている会田さん
ズームの画面越しにアドバイスをしている保坂さん

コラボレーションの体験談

オンラインで参加した片岡さんと保坂さんは前半のみ参加し、後半では、メンターである会田さんと安田さんから、それぞれの国際協働の経験が共有されました。会田さんは、独立行政法人国際交流基金が日・ASEAN友好協力40周年を記念して実施した「Media/Art Kitchen」にキュレーターとして参加し、7か国13人のキュレーターと協働した経験を紹介しました。2012年から約2年にわたり、東南アジアのメディアアートに焦点を当てた展覧会をつくり上げる過程で生まれた現地アーティストやコレクティブとの対話と共創について語りました。異なる文化や価値観からの発見や、現在もその関係性が持続していることなどに触れ、国際協働の意義を示しました。

安田さんは、前職で学芸統括と副館長を務めた原美術館での2つの事例を紹介しました。1つ目は、1997〜98年にノルウェー・オスロ国立美術館と共同で開催した展覧会「ノルウェー現代美術の3人―場としての表現」。2つ目は、メルセデス・ベンツ日本株式会社が1991年から実施している「メルセデス・ベンツ アート・スコープ」です。原美術館は2003年から2021年の閉館までパートナーとして協働し、日本とドイツの現代美術アーティストを相互に派遣しながら、アーティスト・イン・レジデンスの成果展を開催しました。

これらの事例を通じて、共同キュレーションの実践や、アーティストのリサーチと制作におけるキュレーターの役割など、示唆に富んだ体験談が語られました。

コラボレーションの体験談を伝える安田さん
会田さんに質問するMESの新井さん

質疑応答では、参加者からさまざまな質問が寄せられ、海外での制作・展示に向けた貴重な学びの時間となりました。これから各チームの取り組みがどのように深化し、観客とどのような対話を生み出していくのか。今後のJUMPの展開に、ぜひご注目ください。

参加者全員の集合写真

JUMP Meetup とは

JUMPでは、育成対象のアーティスト、キュレーター、アドバイザーの役割を担うメンターが一堂に会する機会として、「JUMP Meetup」を開催しています。アーティストとキュレーターは各自の進捗や課題を共有し、メンターは国際協働の実践的な助言を行います。作品の内容やコンセプトに対するフィードバックや、有効なプレゼンテーションやテキストの書き方、海外組織との調整や交渉のコツなど、具体的なアドバイスで育成対象者を支援します。

JUMP Meetup とは